アンバランスな人口比率~計画立案者は後悔する~
『アンバランスな人口比率~計画立案者は後悔する~』

著:HaL 価格:450円  レーベル:ガローファノ文庫

【冒頭試し読み】

 目次

【第一章】『悲劇の始まり』
【第二章】『手掛かり』
【第三章】『調査』
【第四章】『まさかの真相』
【第五章】『罪と罰』
【最終章】『激しい後悔の中で』

【第一章】『悲劇の始まり』

 うららかな春の陽気を過ぎ、いよいよジメジメとした梅雨の時期を迎えようとするこの日、山口家では一人娘の優花《ゆうか》が十一歳の誕生日を迎えていた。
 テーブルには優花が楽しみにしていたバースデーケーキが用意してあり、ケーキの上には十一本のろうそくがぐるりと立てられていた。
 テーブルを囲むように家族が座っており、この日の主役である優花が瞳を輝かせ、今まさにゆらゆらと揺らめくろうそくの炎を吹き消そうとしていた。
「一気に全部消せるかな?」
 母親の美智代がやさしく問いかけると、美智代の優しい声に応えるように小さな口でふーっと勢いよく吹き消した優花。
 優花が吹き消したろうそくは一本だけ残ってしまったものの、最後のひと吹きでようやくすべてのろうそくを消す事が出来た。
 ろうそくを消し終わると、優花はにこやかな笑顔を携《たずさ》え両親にプレゼントをもらう。
「おめでとう優花。はいこれ、パパとママからお誕生日プレゼント」
「ありがとう、わぁなんだろうなぁ、開けていい?」
 うれしそうに尋ねる優花に優しく返事をし
 たのは、父親の徹であった。
「いいぞ、早く開けてみな、きっと優花が喜ぶ物が入っているから」
「ほんと? 何だろう楽しみだなぁ」
 ところが、このプレゼントこそが悲劇の始まりであった。
 満面の笑みを浮かべワクワクしながらプレゼントを開ける優花。するとそれは優花が以前から欲しいと言っていた大人気ゲームソフトだった。
「わぁ、これ前から欲しかったんだぁ、でもどうして?」
「やっぱりそうだったか、じゃあこれにして正解だったな。最初はそろそろ優花にもスマホを買ってあげても良いかなとも考えたんたけどな、でもスマホは中学生になってからって約束だったよな」
「あたしどうせならスマホの方が良かったけどなぁ」
 少し残念そうに呟《つぶや》く優花に対し、徹は優しい笑みを浮かべながら語り掛ける。
「何言ってるんだ、今のケータイもガラケーだけどまだまだ充分使えるだろ? まだ使えるのにころころ変えてももったいないじゃない」
「確かにそうなんだけどさ、でも学校の友達みんなスマホを持ってるんだよ」
 優花のこの言葉は、近頃の小学生としては
 当然と思えるものでもあったが、優花には以前から防犯用も兼ねてキッズケータイを持たせていたため、まだ小学生の優花にはそれで充分だと考えていた。
 徹は優花に対し満面の笑みでやさしく諭《さと》す。
「優花はみんなが持ってるから自分もほしいのか?」
「そりゃみんな持ってたらあたしだってスマホ欲しいよ」
「確かにそうかもな、みんなが持ってるのに自分だけ持ってないなんてことになったら欲しくなって当然かもしれない。でも優花には我慢する事や物を大切にする事も覚えてほしいんだ。分かってくれるよな」
 少しだけ残念な表情を浮かべる優花であったが、優花がスマホを欲しがる理由はそれだけではなかった。
(あたしもう十一歳よ、いい加減キッズケータイも卒業したいじゃない。ほんとはそれも理由の一つなんだけどな?)
 優花が少し残念な気持ちでいると、彼女の気持ちを見透かしたように徹の優しい声が届いた。
「なんだその顔、プレゼントがスマホじゃなくて落ち込んでいるのか? 大丈夫だ心配しなくて、中学生になったらちゃんとスマホを買ってやるから、それだけは約束する。その頃までには今のケータイも充分働いてくれるだろう。だからもう少しの間スマホはお預けな、ガラケーで我慢してくれ」
「はぁい」
(でもせめてキッズケータイじゃなかったらなぁ、これ持ってると結構恥ずかしいんだよな?)
 優花がこんな風に思っていると、徹は更に続ける。
「だからせめてゲームソフトをと思ってな。実はいつだったか優花がこのゲームを欲しいって言っていたのを思い出したんだ。だから今回はこれで我慢してくれ」
 本当はスマホの方が欲しかったが、親に気を使い納得したふりをする優花。徹の言う通りこのゲームソフトも欲しかったことには変わりはなかった。
「うん分かった。でもこのソフトもスマホと同じくらい欲しかったからすごくうれしいよ」
「なら良かった。だけど勉強もしっかりやるんだぞ、優花の事だからそんな事言わなくても分かってるよな?」
「もちろん分かってるよ。ありがとうパパ、ママ、勉強もしっかりやるから心配しないで」
 すると優花の隣で、彼女の祖母である静代がやさしい語り口で声を掛けてきた。
「優花、おばあちゃん優花へのプレゼント何にしたら良いか分からないから、今度の日曜日にみんなで優花の好きな回転寿司でも食べに行こうか」
 静代が朗《ほが》らかな笑みを浮かべながらやさしく語りかける。
(回転寿司かぁ、確かに好きは好きだけど、どうせなら後に残る物がよかったな? お寿司じゃ食べたらそれで終わりじゃない。でもまあいいか、せっかく食べに連れてってくれるんだもん、文句言えないよね。そんな事よりちゃんとお礼言わなきゃ)
 こんな風に考えていた優花は、満面の笑みを浮かべつつ祖母に気を使うように返事をする。
「うん、ありがとうおばあちゃん」
 ところがこの時、静代に対し母親の美智代が申し訳なさそうに尋ねてきた。
「良いんですかお義母さん。最近また年金が減らされたって言っていたじゃないですか、お気持ちだけで充分ですから無理なさらなくても良いんですよ」
 美智代の言う通り、近頃は高齢者人口の増加と共に年金受給者層も増えてしまった為、受給開始年齢も高くなり、そしてまた支給額も大幅に減らされていた。
 美智代の言葉に優花は不安な気持ちを抱いていた。
(回転寿司食べられないのかな? 食べられないならそれでもいいけど、代わりに別の物って言っても、ママの言い方だとそれも無理そうだな)
 少しばかり不安な表情を浮かべる優花であったが、その思いはすぐに吹き飛ぶ事となった。
「良いんですよ美智代さん、かわいい孫の為だもの。回転寿司くらいたいした事ないわ、あなたたちが同居してくれているおかげで生活費に困らなくて済むしね、この歳になるとお金なんて持っていたって他に使う事ないんだから、こんな時に使わないでいつ使うというの?」
「そうですか? ありがとうございますお義母さん」
 再び申し訳なさそうに恐縮《きょうしゅく》しつつ、静代に対し礼を言う美智代。
 ところがどんよりとした雲が立ち込め、空が今にも泣き出しそうな日曜日、この一家にとって運命の日がやって来た。
「優花、今日は友達と遊ぶ約束でもあるのか?」
「今日は別にないよ、なんで?」
 優花が疑問の声とともに応えると、徹が更に続ける。
「そうだよな、今日は雨降ってきそうだし、だったらパパ達買い物に行くけど一緒に行くか? 宿題昨日の内に終わらせたんだろ」
「でも回転寿司は?」
「回転寿司は夜にしよう」
「だったら行く」
「分かった、じゃあ支度して」
 徹のやさしい声に支度に掛かろうとした優花であったが、すぐに思い直した。
「あっごめん、やっぱり良いや。誕生日にもらったゲームやりながら待ってる」
「そっか、でもあまりゲームばかりやりすぎるんじゃないぞ、分かってるよな」
「分かってるよパパ」
「じゃあパパ達行って来るからな、おばあちゃんと良い子にしてるんだぞ」
「はぁい、行ってらっしゃい」
 両親が出掛けると、優花はさっそくゲームを始めた。
 小中学生を主なターゲットに開発されたこのゲームとはシリーズ化されるほどの大人気ゲームとなっており、メインのターゲット層からもスマホアプリではなくあえてソフトとして発売され、発売前から話題となっており、発売後すぐに売り切れ続出となる大人気ゲームとなっていた。これにより発売からしばらくの間は欠品が相次いでいたのだが、この頃ようやく入手可能となっていたのだった。
 ところが優花がゲームを始めて暫くするとそれは起きた。
 この時テレビに向かいゲームを楽しんでいた優花であったが、突然すくっと立ち上がると何かに導かれる様にキッチンへと向かった。
 優花の表情はまるで生気《せいき》を失っており、一体自分が何をしようとしているかさえ分かっていなかった。
 優花はキッチンから包丁を取り出すとそのまま静代の下へ向かい、手に持っている包丁で座布団を枕がわりにして寝ている静代の脇に立った。
「おばあちゃん、おばあちゃんはもう生きていちゃいけないんだって、だからもうさよならだよ、バイバイ」
 この様な謎の言葉を呟くと、優花は持っている包丁で静代の腹を突き刺した。
「キャ―」
 突如《とつじょ》我に返った優花は、目の前に横たわる血まみれの静代を見た途端一体何が起こったのか分からずにいたが、ところが彼女の瞳に映る血を流した静代の姿と、自分が握りしめている包丁に気付いた優花はその現実に驚き悲鳴を上げてしまった。
「あたしゲームをしていたはずなのにどうしてこんな事になってるの、どうしたのおばあちゃん血だらけじゃない。一体誰がこんな事したの、何なのよこの包丁、どうしてこんなの握りしめてるの? 怖い、一体どうしたというの?」
 震える声で呟いた優花は、必死に静代に声をかける。
「どうしたのおばあちゃん、こんなに血が出てるじゃない。おばあちゃんしっかりしてよ、ねえおばあちゃんてば」
 状況からどう考えても自分がやってしまった事に間違いはなく、優花の表情はみるみるうちに顔面蒼白《がんめんそうはく》になり小刻みに体を震わせていると、悲鳴を聞きつけた隣人の村上が一体何事かと山口家に駆け付けた。
 するとそこには、血まみれでぐったりした静代と、傍《かたわ》らには体をガタガタと震わせ、血に染まった包丁を両手に握りしめた優花が返り血を浴び腰を抜かして座り込んでいた。
「優花ちゃん何やってんの! 早くそんな物離して。とにかく警察に電話しなきゃ、その前に救急車」
 村上は普段の優花では思いもしなかった行動に非常に驚き一瞬パニックになってしまったが、徐々に落ち着きを取り戻し出来る限り冷静に119番と110番をした。
 暫くして近くの交番から二名の警察官が到着すると、数分後救急車も到着したが、残念ながら静代は病院に搬送される事なく死亡が確認された。
「あたし、あたしなんて事」
 この時優花の包丁を持つその手は未だ小刻みに震えており、体を震わせる優花のもとに一人の警察官がゆっくりやってくると、そっとその手を押さえ、その小さな手からゆっくりと包丁を離していく。
 その間もう一人の警察官により現場保存ののち本署に連絡が取られ、鑑識により現場検証等が行われる事となったが、現場の状況等から優花の犯行にほぼ間違いはなく、警察官達は何故こんな小さな女の子がこの様な犯行を行うに至ったか不思議に思ってしまい首を傾げていた。
「とにかく警察に行こうか、お父さんとお母さんはどうしたの?」
「買い物……」
 震える小さな声で呟くように応える優花。
「そう買い物に行ったの、それでおばあちゃんと留守番をしていたのかな?」
 何も語らず、こくりと頷く優花。

 
(続きは製品版でお楽しみください)