『雄哉と朱里の事件ノート~まさかの犯人はあの人でした~』

著:HaL 価格:450円  レーベル:ガローファノ文庫

【冒頭試し読み】

目次

【第一章】『施設で育った二人』
【第二章】『和解』
【第三章】『突然の悲劇』
【第四章】『頼みの綱』
【第五章】『逮捕と逃亡』
【第六章】『自供』
【第七章】『男性恐怖症』
【第八章】『裁判』
【最終章】『そして平穏な生活へ』

【第一章】『施設で育った二人』

 この日久しぶりにデートを楽しんでいた石川 雄哉《ゆうや》と立花 朱里《あかり》は、最後に東京タワーに上り展望台から街の夜景を眺めていた。
「きれいだね雄哉兄ちゃん、またここ来ようね」
「そうだな、絶対にまた来よう」
 朗らかな笑顔で言う雄哉であったが、次の瞬間、雄哉の表情は真剣なものに変わった。
「朱里、俺が今脱サラして輸入雑貨の店を開こうとしているの知っているだろ?」
「もちろん知っているわ」
「朱里も同じ境遇だから分かると思うが、施設で育った俺達には身寄りもなくて店を手伝ってくれる人がいないんだ。もちろん軌道に乗るまではアルバイトを雇うだけの金銭的余裕もないしな?」
「そうね、軌道にのるまではアルバイトを雇うのは厳しいかもね、だからあたしが手伝うわよ店くらい。だけど会社が休みの土日だけになっちゃうけどね、ごめんね毎日手伝えなくて」
 ここで突然俯いてしまった雄哉であったが、再び顔を上げると意を決したように以前から考えていた決意を口にする。
「別に謝る事ないよ、でもその事なんだけど、申し訳ないが毎日手伝って欲しいんだ、もちろん仕事もやめてな、あと食事の支度などの家事も頼みたい、もちろん俺も出来る限り協力する。この事が何を意味しているか分かるよな?」
 雄哉のまさかの言葉に、すべてを悟った朱里の表情はほころびっぱなしで、その瞳からは大粒の涙があふれていた。
「あたしなんかで良いの? 雄哉兄ちゃん」
「もちろん! むしろ朱里が良いんだ。ただし店が軌道に乗るまでは苦労かけるかもしれないがそれでもいいか?」
「雄哉兄ちゃんと一緒ならそれでもいい」
「ありがとう、そう言ってくれて俺もうれしいよ」
「雄哉兄ちゃんはあたしの事妹位にしか思ってないと思ってた」
 笑みを浮かべながら言う朱里に対し、雄哉も笑顔で返す。
「確かに最初は俺も朱里の事を妹の様に思っていた。でもその感情はいつしか恋に代わり、次第に恋から愛へと変わって行ったことに気が付いたんだ」
 雄哉の言葉にうれしく思い、瞳を潤ませ返事をする朱里。
「あたしも前から雄哉兄ちゃんのこと好きだったの、でもあたしたち施設で兄妹のように育ったでしょ? あたしの事相手にしてくれないだろうなと思って……」
「そんな事ないよ、それにそんな風に思っていたらこうして二人でデートに出かけたりしないだろ?」
「ありがとう雄哉兄ちゃん、あたしほんとにうれしい」
 あまりのうれしさから、人目もはばからず思わず雄哉に抱き付く朱里。
 それを雄哉も両腕を広げて受け止める。
「俺も朱里がオーケーしてくれてうれしいよ」
 その後優しく両手で朱里を引き離すと、一つ注文を付ける雄哉。
「だけど一つ注文いいか?」
「なに雄哉兄ちゃん?」
「それなんだ、俺たち結婚するんだから、その雄哉兄ちゃんてのはやめような?」
「だったらなんて言えばいいの?」
「俺の事は呼び捨てで良いよ、雄哉で」
「分かったわ、今度からそうするね雄哉」
 にっこりとほほ笑みながら言う朱里。
「遅くなるからそろそろ帰ろうか?」
「うん、ありがとう雄哉、今日は最高の思い出のデートになったわ」
「それを言うなら俺もだよ」
 ところがこの時、この日二人の最高のデートが最悪の出来事へとつながる事に二人は気付いていなかった。
 この日の夢のようなデートからの帰り道、雄哉の運転する車の後ろを一台の警邏中《けいらちゅう》のパトカーが走っていた。
 途中雄哉の運転する車が赤信号で止まっていると、そこへ後ろから来たパトカーが追突してきた。
 原因はパトカーを運転する今井巡査が一瞬よそ見をしたすきに雄哉の車が止まっていたことに気付かず、そのまま追突してしまったのだった。
 突然後ろから来た衝撃に、一瞬の出来事で何が起こったのか分からなかった雄哉だが、すぐに追突されたことに気付き車から降りると、事故を起こした若い今井巡査が後ろから慌てた様子で駆け寄り、あとから先輩の田所巡査長もやって来た。
 すると運転をしていた今井巡査が申し訳なさそうに謝罪する。
「申し訳ありません。けがはないですか?」
「俺は大丈夫だけど、朱里は大丈夫か?」
「ちょっと打ったみたいだけど、今のところ大丈夫よ」
「そうか、なら良かった、でも今は症状が出なくても明日になって痛みが出るかもしれない。とにかく相手が警察官とはいえ事故には違いないんだ、警察を呼びますね」
「分かりました、でしたら警察無線で連絡しますので」
「そうですか、ではそうして下さい!」
 この間雄哉は、保険会社への連絡も怠らなかった。
 その後今井の連絡により数名の警察官がやってきたが、この事により状況は一変してしまった。事もあろうに彼らは自らのミスを認めようとせず、雄哉が急ブレーキをかけた為に後ろを走っていたパトカーが間に合わずに追突したと言い始めたのだった。
 これには怒り心頭の雄哉。
「どうしてそうなるんです、パトカーがぶつかってきた時俺たちの乗った車は既に赤信号で止まっていたんです。ドライブレコーダーだってついていますから確認してください、そうすればどちらに非があるかわかるはずですから!」
 ところが雄哉が必死に訴えかけるものの、連絡を受け現場にやって来た中山巡査部長はまさかの言葉を口にする。
「その必要はありません。警察官がこんなミスをするわけないじゃないですか!」
 中山のまさかの言葉に、雄哉は我が耳を疑ってしまった。
「それをしたんですよ、あなただって自分から謝って来たじゃないですか」
 今井に対して訴えるものの、今井の口から帰ってきた言葉は思ったものではなかった。
「あの時は気が動転してしまっていたので思わず謝ってしまいましたが、今思えばあなたが急にブレーキをかけたので止まり切れなかったのかと……」
 小さな声で申し訳なさそうに言う今井の姿に、雄哉の目にはこの警察官が嘘を付いているであろうことがはっきりと分かった。
「あなたまで何を言うんです、お互い口裏合わせですか、とにかくドライブレコーダーを確認してください! すぐ済む事じゃないですか」
「自分で事故の原因を作っておきながら何を言ってるんですか! とにかく危険な運転をしたという事で切符を切るからね」
 状況は変わることなく、更に悪化しているように思えた雄哉は苛立ちを隠せずにいた。
「何言ってるんだ、信号待ちで止まっていただけで危険運転だと、そんなおかしな話があるか! 切符だって切られる理由なんてどこにある!」
 この時雄哉の怒りは最高潮に達していた。
「いい加減にしなさい! でないと公務執行妨害で逮捕しますよ」
「今度はそうやって国家権力を振りかざすんですか」
 ぽつりと呟くように言い放つと、仕方なく雄哉は引き下がるしかなかった。
 雄哉はレッカーを呼ぶと、一度車に戻りドライブレコーダーからメモリーカードを取り出すとポケットに入れた。その後レッカーが到着すると車が運ばれていくのを見送り、自分達もタクシーを呼ぶと、まず朱里を自宅まで見送り、自らも帰宅の途に就いた。
 ところが翌朝朱里から電話があり、首のあたりがひどく痛むとのことで病院に行くと、むち打ちになっていることが判明し、全治三か月との診断が出た朱里はすぐに入院する事となった。
 看護師により病室へと案内された二人。
 すると雄哉は落ち込む朱里に対し励ましの言葉をかける。
「やっぱりむち打ちになってしまったか、何もなければいいと思っていたんだけどな? 取り敢えず入院している間はゆっくりと休んだ方が良いよ」
「そうするわ、心配してくれてありがとう」
 ところがその数日後保険会社から連絡があり、事故の過失割合は雄哉の方が多いと言う判定が出てしまった。
(被害者はこっちのはずなのに、どうしてこんな判断になるんだ!)
 雄哉はすぐに保険会社に電話をかけると、電話口に担当者を呼び出した。
「一体どうなってるんですか!」
『何の事ですか?』
「過失割合の事です、どうして俺の方が多いんですか、これでは俺の方が悪いみたいじゃないですか」
『だって実際そうなんですよね、警察の調書では石川さんが急ブレーキをかけた為に起きた事故となっていますが』
「実際にはそうじゃないんです。根本的なところが違うんですよ、僕が信号待ちで止まっていたところに後ろからパトカーが追突してきたんです! それなのに警察官がそんなミスをするわけないと言って一方的に僕が悪いと言うふうにされてしまったんですよ!」
「そんなことありえないでしょ、警察がそんな事をするわけないじゃないですか、過失割合の比率を自分に有利にしたいからと言って、そんな嘘を付いたってわかるんですよ」
「嘘なんかじゃありません! 本当に警察は一方的に僕に責任を押し付けたんです、証拠のドライブレコーダーの映像だってあります。警察はこちらがどんなにドライブレコーダーを確認してほしいと言っても確認さえもしてくれなかったんです、その時の様子がちゃんと証拠として映っています。それを見て頂ければどちらに非があるか分かるはずです」
「そう言われましてもね、警察がそんな事をするなんて信じられませんし、もう過失割合も決まってしまっていますから」
 雄哉は朱里にけがをさせられたことや、今回の保険で自分が不利な立場にさせられたことに怒りを覚え、近所の弁護士事務所を調べ相談に行ってみることにした。
(弁護士費用特約にも入っておけばよかったな、とにかくメモリーカードを抜いておいてよかった)
 すると近くに小さな弁護士事務所がある事が分かり、そこに行ってみることにした雄哉は取り敢えずアポイントを取ってみることにした。
『はい、小鳥遊《たかなし》法律事務所です、何かお困りごとですか?』
「石川と言います、突然のお電話失礼します。急で申し訳ありませんが、ご相談したいことがあるのでこれから会って頂く訳にはいきませんか?」
『分かりました、ではお待ちしています』
 その後雄哉は法律事務所へと到着し中に入ると、そこは三十代後半くらいの男性弁護士である小鳥遊と女性の事務員がいるだけの小さな事務所であったが、事務所の中は書類などがきっちりと整理され掃除も行き届いており、それだけで仕事の出来る弁護士であろうことが伺えた。
 さっそくこの事務所の所長である小鳥遊に相談する。
「本日は突然申し訳ありません」
「良いんですよ気にしなくて、それより相談というのはどういった事でしょうか?」
「それなんですが、実は先日の夜車を運転していた時の事なんですが、赤信号で信号待ちをしていた時に後ろから来たパトカーに追突されてしまいまして」
「それは災難でしたね、それでその後どうしたんです?」
 詳しく尋ねる小鳥遊。
「パトカーを運転していた警察官は最初謝ってくれました。ですが相手が警察官とはいえ、事故には違いないので通報しようとしたところ、運転していた警察官が警察無線で呼ぶからと言ったのでお願いしました。ですがそれが間違いだったようです」
「どういう事ですかそれ」
 小鳥遊が疑問の声で尋ねると、更に続ける雄哉。
「警察無線で仲間を呼んだ時に何かしらの指示があったようです。あとから事故処理に駆け付けた警察官は僕が何度止まっているところへぶつけられたと訴えても、僕が急ブレーキをかけた為に間に合わずに衝突してしまったと言い張って、こちらがどれほどドライブレコーダーを確認してほしいと訴えても、警察官がそんなミスをするはずないから僕が悪いと一方的に決めつけて、確認さえもしてくれませんでした。
(嘘だろ、そんな警察官本当にいるのか?)
 小鳥遊がそんな風に思っていると、更に続ける雄哉。
「それだけではありません。挙句の果てにはパトカーを運転していた警察官まで一度は僕に謝っておきながら、仲間の警察官がやってくると態度を変えてしまい、僕が急ブレーキを踏んだために間に合わなかったと言い出したんです。僕が何度も食い下がっていると、しまいには公務執行妨害で逮捕するとまで言いだしてこちらの言い分を聞いてくれませんでした」
 雄哉の説明を聞いた小鳥遊は、非常に驚いた様子で目を丸くしてしまった。
「それとこんな事もありました」
「なんですか? 何でも話してください」
 大きく身を乗り出して尋ねる小鳥遊。
「この事故で被害者のはずの僕が危険な運転をしたという事で切符を切られてしまったんです」
「そんな事ってあっていいんですか! もしこれが本当だとしたら完全なるもみ消しじゃないですか、それどころか市民に責任を押し付けて隠ぺいしたと言ってもいい。その時目撃者はいなかったんですか?」
「夜遅かったですし普段からあまり人通りの多い道でもなかったので、それに警察がこういう態度なので目撃者がいたとしても僕たちの力ではどうにもなりません! それと昨日保険会社から連絡があったんですが、過失割合が僕の方が多くなっていたんです。僕はただ赤信号で止まっていただけなのに、どうしてこんな事になるんですか?」
 この様に応えた雄哉であったが、まだ希望は残っていた。
「そうですか、もし石川さんの話が本当だとすると確かにこれはおかしいですね。確かドライブレコーダーがついていたと言いましたね、そのデータはありませんか?」
「持っています、メモリーカードを持ってきました」
「良かった、では早速見てみましょう」
 その後雄哉は、メモリーカードと共に持ってきたパソコンにカードをセットし、そして再生した。
 その後少しの間再生していると、問題のシーンが現れた。
「ここです! 映像でもわかるように、僕たちの乗った車は明らかに赤信号で止まっていました。この数秒後に衝撃により画像が乱れています」
「確かにそうですね、明らかに止まっているのが分かる。映像を見てもゆっくりスピードが落ちているのが分かりますね、どう見ても石川さんの車が急ブレーキを踏んだようには見えません!」
「後ろにもカメラがついていたのでその映像も確認してみてください」
「ぜひお願いします」
 すると雄哉は、パソコンを操作しリアカメラの映像を再生する。
 問題のシーンが映し出されると、雄哉は小鳥遊に対し自らの正当性を訴えかける。
「夜遅く暗いので分かり辛いですが、この車がパトカーだという事は分かります。このパトカーはこれだけ僕の車に接近してもスピードを落とそうとしません! その後明らかに遅いタイミングで急ブレーキを踏みますが、結果僕の車に衝突してしまいました。はっきりしたことは言えませんが、よそ見でもしていたんでしょう」
「その可能性は大きいですね、結果不祥事を不祥事で隠すような真似をしたんでしょう」
(こんな真似をして、日本の警察はこんな事で良いのか?)
「この映像を見る限り先程の警察の対応は誰が見てもおかしな話ですね」
「実は当時僕の婚約者が助手席にいたのですが、事故の影響でむち打ちの症状が出てしまい全治三か月との診断が出てしまいまして現在入院中です」
「そうでしたか、それは大変でしたね、完全に治ればいいんですが、後遺症が残ったりする場合もありますからしっかり治さないといけませんね」
 すると小鳥遊は、雄哉に対し今後の対応を尋ねる。
「それでどうしますか今後は」
 雄哉はそこまで考えていなかったので言葉に詰まってしまった。
「と言うのは?」
「この場合都を相手に裁判を起こすことになるでしょうが、その際裁判が終わるまで多額の費用が必要になります、となれば和解に持ち込むしかないでしょうがその場合の和解金はどうしますか? 車を壊されただけでなく、事故の責任を押し付けられたどころか、婚約者の方をむち打ちにまでされたんです。ならばそれなりの額はもらっていいと思いますが……」
 小鳥遊のこの言葉に、雄哉はこれからの希望が見えた気がした。

 
(続きは製品版でお楽しみください)